バングルウォッチ開発秘話

眼鏡製造と越前漆器、地場産業を融合し、
ものづくりのまち鯖江市から世界へ発信

1500年の歴史を誇る越前漆器の産地で漆器づくりを手がける五十嵐一男さんと、植物由来の自然素材アセテートを使った眼鏡フレームを製造する津田功順さん。

モノづくりのまちとして知られる福井県鯖江市で、異なる業種のふたりが出会い、漆器と眼鏡の素材と技術をコラボレーションした『イガッタコレッティ』が生まれました。

ブランドの顔とも言えるバングルウォッチの誕生秘話や開発時のエピソードを通して、『イガッタコレッティ』のモノづくりに込められた想いやこだわりを語り尽くしました。

五十嵐一男株式会社サンユー 代表取締役

歴史と伝統ある越前漆器の産地として知られる福井県鯖江市河和田地区で、1982年に創立。お茶道具や器の漆器塗装を手がけ、近年は、漆器の技術を生かした『蒔絵時計』などオリジナルブランドを展開する。機能・デザイン・美しさにこだわり、持ち前の好奇心と美意識でモノづくりへの挑戦を続ける。

津田功順プラスジャック株式会社 代表取締役社長

眼鏡生産全国1位を誇る福井県鯖江市に、1998年創立。綿花を主体とした植物性繊維を原料とするアセテートを使った眼鏡フレームの製造を手がける。「モノづくりは楽しくなければ」の思いのもと、オリジナルブランド『+38A』や防災・防犯用笛のアクセサリー『effe』などの商品開発にも取り組む。

片手でも取り外しできる、人のためになるモノづくり

五十嵐:2018年秋に新色を出したバングルウォッチだけど、開発を始めたのは3~4年前かな。自社のオリジナルブランドで漆器の技を使った蒔絵時計があるんだけど、それはベルトが革で、お客さまで指が不自由な人から「片手でポンとつけられないか」と言われたのがきっかけ。その方は、いつもご家族に時計をつけてもらっていたんだけど、バングルみたいに自分で簡単に取り外しできるものがほしかったんだね。

ベルトの素材をいろいろ考えるうちに、眼鏡フレームの素材はどうかなってなって。特に、アセテートやチタンは肌にやさしいし、眼鏡の素材だったら鯖江で全部やりくりできる。世の中には時計タイプのバングルもあるし、最初は、アセテートでバングルをつくって、そこに時計をのせればいいって単純な発想だった。

津田:うちは祖父の代から植物由来のアセテートを使ったセルフレームの眼鏡枠をつくっているから、技術や知識はある。なにより、眼鏡は「人のためになる」ものだから、手の不自由な方に役立つバングルウォッチをつくることは、すごく共感できたんですね。

ただ、実際は、そこからが大変で…(苦笑)。アクセサリーのように腕にかける感じのバングルにしたら、文字盤が重さでぶら下がってしまう。腕にフィットさせたいけど、人によってサイズが違うから、まず、いろんな人の手首のサイズをはかっていって…。

五十嵐:日本一手首をはかった男だよね(笑)。それで半年~1年間かけてやったんだけど、1回挫折しちゃう。「もう無理やわ」って(苦笑)。

津田:バングルの寸法だけでなく、時計の文字盤をつけかえて楽しめるよう、アセテートの裏にベータチタンのプレートをはめ込むんだけど、幅が太いとバネが強すぎるし、細いと弱すぎて加減が難しい。見た目的にも、表からチタンがはみ出て見えてダサいし、ギシギシと音もしてうまくいかない(苦笑)。このままやっても時間も費用もかかるからって、一度はあきらめたんですよね。

「かけ心地」にこだわって、試作を繰り返し特許を申請

五十嵐:でも、あきらめきれなくて(苦笑)。「今度は絶対やりとげる!」ってリスタートしたんだよね。

津田:そう。ベータチタンの幅や厚さ、長さを、0.1ミリ刻みで吟味して、試作品の山ができるほど頑張った。最初は、ベータチタンをネジどめしてたんだけど、文字盤とアセテートのバングル、それを支えるベータチタンのプレートが絶妙なバランスで成立する独自の構造を取り入れて、ようやく「これでいける」ってなった。その構造は五十嵐さんから提案してもらって、特許を申請中なんですよね。結果的に、ベータチタンのバネ性とアセテートを組み合わせることで、ほど良いホールド感が実現できました。

五十嵐:バングルウォッチは、そもそも鯖江で開発するんだから、顔に眼鏡を「かける」ように、腕に時計を「かける」発想でつくりあげたいと思ってたんだよね。だから、「かけ心地」はすごく大事だった。アセテートもベータチタンも肌にやさしく、どちらも軽いから、時計をしているのを忘れるくらい快適な「かけ心地」になったよね。

津田:アセテートって自然の綿に由来する素材だから、まず肌にやさしいんです。それでいて、合成樹脂より濁りがないから発色がいい。やわらかいので切削で加工できるから金型がいらず、自由度がきいて、試作もつくりやすい。さらに、小ロットにも対応しやすいっていう、たくさんのメリットがあるんですね。

五十嵐:時計の文字盤は、越前漆器の職人が熟練の技で漆を塗っているんだけど、漆器は高価で敷居が高いイメージがあるから、そのハードルを下げたいという思いもあった。以前は過剰な装飾を文字盤につくり込みすぎてしまう傾向があると経験上わかっていたから、職人さんには「シンプルで上質なものをつくりたい」と話しをして、今では「あぁ、それいいね」って楽しみながらやってもらう関係ができている。

津田:五十嵐さんから熟練の技を持つ漆職人さんを紹介してもらったら70代の方で、すごくお元気でしたね。やる気のあるベテランの職人さんが産地にいてくれるんですよね。

鯖江の眼鏡と漆器の技術で、「これっていいね」をつくる

津田:五十嵐さんと知りあったのは、7~8年前のギフトショー。鯖江ギフト組(※1)にもオブザーバーとして参加されていて、「せっかく知りあったので、鯖江の漆器と眼鏡の技術を融合して、おもしろいモノをつくろう」と話してた。それで『イガッタコレッティ』を立ち上げて、最初は靴べらづくりから始まったんですよね。

五十嵐:『イガッタコレッティ』のネーミングは、ふたりの頭文字を組み合わせたもの。「五十嵐(イガラシ)と津田(ツダ)で“これっていいね”っていうのをつくろう」というのを縮めて、イタリア語っぽく言ってみた(笑)。
コンセプトはシンプルモダンで、落ち着いたイタリア・ブランドの上質なモノの良さを真面目に意識していった。「これってしっかりしている」、「ちゃんと職人が携わっている」、しかも、それが「リーズナブルな価格で手に入る」というのが、もともとの思い。実際、価格に対しての満足度は高いんじゃないかな。
あと、女性用で小洒落たものはいろいろあるけど、男性用って当時あんまりなかったから、ターゲットは20~50代の男性にしたんだよね。

津田:女性から男性にプレゼントできるものにもと思っていたら、意外と女性にも好評で。バングルウォッチは女性を意識したスモールフェイスのラインもつくったし、名刺ケースやピンズとかはユニセックスなラインナップになっています。

モノづくりの先人に感謝し、楽しみながら次世代へ継承

津田:お互い独自の自社ブランドも手がけているけど、『イガッタコレッティ』に関しては、どの商品も漆器と眼鏡の技術と素材を両方使うことが大事。どちらか片方だけじゃ『イガッタコレッティ』じゃないと僕は思っています。

五十嵐:それは外しちゃいけない、ベースの部分だよね。漆器や眼鏡など、鯖江の地で先人たちがつくり続けてきてくれたものは、大事な資源だと思う。それに感謝して、次の世代につなげていかないと、という思いがあるよね。

津田:モノづくりでいえば、僕はこのプロジェクト以外でも、とにかく「まずは、モノづくりが楽しくないとダメだ」という思いが強いですね。

五十嵐:僕は「つくりたい願望」があって、年を追うごとにだんだん「早くつくって、早くみんなに見せたい」ってなってきてる(苦笑)。

津田:突然「これつくれる?」って工場にやってきて(笑)、「あぁ、やってみます」って、僕が無茶ぶりを聞くという関係性ですよね(笑)。

五十嵐:そうだね(笑)。

津田:今後の展開としては、眼鏡と漆器は必須だけど、それだけじゃ限界がでてくる可能性があるから、さらになにか新しいものをプラスしていくのもいいなと思ってます。

五十嵐:それもおもしろいよね。販促の方では、ネット販売に力を入れつつ、実際に手にとって見てもらえるよう期間限定でセレクトショップとかに置いたりもしてみたいね。

※1.鯖江ギフト組:2009年から始まった、世界3大眼鏡産地鯖江市の「新しいモノづくり」プロジェクト。
世界最高水準の眼鏡技術に、鯖江のモノづくり技術をプラスして、さらに進化したギフトの創出を目指す。

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